浜田省吾ヒストリー⑧ アルバム「PROMISED LAND~約束の地」
浜田省吾さんの歴史を振り返るコーナー。8回目は…。
アルバム「PROMISED LAND~約束の地」
前作のアルバムを2週間という早さで完成させて、初の武道館ライブも大成功におさめ、ミュージシャンとしての箔もついた省吾さん。
ここから知名度も上がっていき、不動のファンを増やし始めていきました。
武道館ライブの際には、ライブのテーマになる曲「ON THE ROAD」も作り
以後、その曲のタイトルはライブツアーのタイトル名にもなっていきます。
もちろん、ライブでも毎回必ず歌われる曲になりました。
そして、次なるアルバムを作る前に、初のライブアルバムも発売するのですが
そのアルバムについては、また一通り、ベストアルバムやバラード集などについて
後でまとめて取り上げる際に、ご紹介したいと思っています。
今回のアルバム「PROMISTED LAND~約束の地」では、架空の街【希望が丘ニュータウン】を舞台に、その街で起こる事件や物語が描かれていて
アルバム全体が一連の流れで繋がっている構成になっています。
アルバムタイトルの「約束の地」というのが、意味深なタイトルですよねぇ。
勝手な解釈でしたけれど、個人的には
人には、それぞれ「約束された場所」があって、そこを目指して必死に生きていかなきゃいけないんだ!なんて思ったものでした。
そして、このアルバムの中で、もっとも要になるのが「僕と彼女と週末に」という歌で
「愛の世代の前に」でも核の問題について触れていましたけれど
今度は核に汚染された結果、地球はどうなっているのかということを、ラブソングの中に含んで歌っています。
省吾さんには先見の目があり、そんな風に問題定義する曲も多いのですが
当時、平和ボケしていた人々は、その曲を聞いて何を歌っているのか気付く人は、ほとんどいませんでした。
評論家からは「リアリティがない」と言われて
そりゃ、今が平和で原発による被害もないから、そんな寝ぼけたこと言ってられたんでしょーっと
今となってみると感じます。
そして、その歌の意味に、やっと気付いてもらえたのは、2011年3月の東日本大震災の時に、原発事故が起きた時でした。
人々は愚かですよね。
事故が起きてからでないと、その脅威に気付くこともできない。
まぁ、安全神話がふりまかれていて、利権をむさぼる人達から、ある意味騙されていたような状態でもありましたからね。
その要になる「僕と彼女と週末に」について、省吾さんは、こんな風に語っています。
これはツアーのために作った曲で。
「愛の世代の前に」が非常にストレートだったでしょ。
だからそれをラブソングに置き換えて、背景に危機感や虚無感とかがある。
この曲が出来た時、このアルバムは、もう半分出来上がったようなもので、それから、その主人公はどういう青年かということで
「マイホームタウン」から順番に歌っていったんです。
著書「浜田省吾事典」より
その歌詞の内容も、省吾さんが言っているように表向きはラブソングで
「恐れを知らないうぬぼれた人々が、宇宙の力を悪魔に変えてしまった。
でも、そういった悲劇的な世界の中から、君を守りたい」
というような内容になっているんですけれどね。
長い歌でもあって、途中セリフが入るんですけれど、そのセリフの内容というのが
まさに「核で汚染された海が、人の命にかかわる問題になっている」ことを提示していて、奥深さもありスケールの大きい歌になっているんです。
ここで、そのセリフについて触れてみようと思います。
このセリフを読んでも、昔だと、ちょっとピンとこなかったのかもしれないですけれど…。
週末に僕は彼女とドライブに出かけた
遠く街を逃れて 浜辺に寝転んで
彼女の作ったサンドイッチを食べ ビールを飲み
水平線や夜空を眺めて 僕ら色んな話をした
彼女は彼女の務めている会社のイヤな上司のことや
先週読んだサリンジャーの短編小説のことを話し
僕は 今度買おうと思っている新車のことや
二人の将来について話した
そして誰もいない海を二人で泳いだ
あくる日 僕は吐き気がして目が覚めた
彼女も気分が悪いと言い始めた
それで僕らは朝食を取らず 浜辺を歩くことにした
そしてそこで とても奇妙な光景に出会った
数えきれないほどの魚が波打ち際に打ち上げられてた
このセリフの中に、多くのことが語られているんですけれど
伝わる人には伝わるけれど、伝わらない人には伝わらないのかもなぁ…。
私が、初めてこのセリフを読んだ時
高校生の頃だったのかなぁ?
その時は、核の影響とまでは察することは出来なかったんですけれど
「海が何かで汚染されていて、それは人体に影響を及ぼすもので、すでに魚の命は脅かされてしまっている。恐いことだな」っと感じたんです。
遠いむか~し、水俣病とかあって、それを思い出したりしてね。
原発事故による汚染に限らず、他の公害によっても、この地球は、今本当に大変な時期にきていることを考えさせられる。
そういう歌だったりします。
そういった歌を、もう37年も前から生み出していたというのが、省吾さんの凄いところなんですよねぇ。
そして、このアルバムの中には、他にもう1つ注目したい歌があってね。
その歌というのが「マイホームタウン」という歌で
日本人の右ならえ的な発想や、周囲と一緒であることで安心できる発想について
揶揄しているような歌でもあり、主人公は、その象徴みたいな街から出て行くことを夢見ているという歌で、凄い説得力ある歌なんです。
「パワーシャベルで削った丘の上いくつもの
同じような小さな家 何処までも続くハイウェイ
彼らはそこを名付けた希望ヶ丘ニュータウン
赤茶けた太陽が工業地帯の向こう沈んでく
俺はこの街で生まれ16年教科書を
かかえ手にしたものは ただの紙切れ
同じような服を着て 同じような夢を見て
瞳の中 少しずつ死を運び込むような仕事に追われてる
今夜誰もが夢見ている いつの日にか
この街から出てゆくことを」
「ドアを1つ閉ざすたび 窓を1つ開けておく
夢と挫折の中を人は彷徨ってる
それが彼らのやり方 だけど人の心まで
積み重ねてロッカーの中 ファイルすることなんかできないさ」
そんな街の何が希望ヶ丘ニュータウンだ?っと思いますよね。
個性は度外視されて、無難に生きることを強いられ、惰性で生きることが人生であるかのような街には、何も希望も見いだせないですものね。
そしてそのシステムに飲みこまれたくないから、ドアを閉ざして自分を守ろうとする。
だけど、それじゃ窒息してしまいそうだから、窓は開けておくという表現も、また良いとことを突いているなっと感じたものでした。
本当に、この国そのものの姿を映し出している歌だと感じます。
アッ、ちなみに、この歌は「宝塚」でもステージの上で歌われていて、天海祐希さんが主演で歌いながら踊っていたんです。
どんな内容のミュージカルだったのかは知らないんですけれどね(笑)
アルバム収録曲は…
- OCEAN BEAUTY(インストゥルメンタル・メロディ)
- マイホームタウン
- パーキング・メーターに気をつけろ!
- ロマンス・ブルー
- 恋に落ちたら
- 愛しい人へ
- DJ!お願い
- バックシート・ラブ
- さよならスウィート・ホーム
- 凱旋門
- 僕と彼女と週末に
このアルバムの中で私が好きな曲は…
- OCEAN BEAUTY
- マイホームタウン
- ロマンス・ブルー
- 愛しい人へ
- DJ!お願い
- バックシート・ラブ
- 凱旋門
- 僕と彼女と週末に
「ロマンス・ブルー」「愛しい人へ」「凱旋門」はシットリとしたバラードのラブソングです。
「DJ!お願い」はドゥーワップで、皆で歌う姿が楽しそうでね。
あれ見ていると自分も仲間に入れてほしいなぁって思ってしまいます。
「バックシート・ラブ」は軽快なリズムのロックで 、少しエッチな感じが魅惑的というか(笑)
そして、このアルバムについて省吾さんは、こう語っています。
自分の中では頂点に立つアルバムだと思っていますね。
たとえば『君が人生の時』までを習作時代とすると、最初の一番充実していたアルバムなんじゃないかと思います。
前にも言ったかもしれませんけど、父を亡くした時に16時間くらいかかって柩を持って帰ったんです。
山口の小さな島なんですけど、その間、初めて全部アルバムを通して聞いたんです。
そして、このアルバムを柩の中に入れました。
作った後は、あまりにも観念的なものを作ってしまったんじゃないだろうか、等身大以上のものになってしまったんじゃないかという気がしたんですが、時が経ってみると凄く 優れたアルバムだなと思いましたね。
やっぱり「僕と彼女と週末に」が一番印象的な曲です。「マイホームタウン」と。
子供の頃、川に魚が浮かんでいるのを見たんですよ。
僕が子供の頃は、ちょうど日本の公害時代ですから、そのシーンが目に焼き付いていて。
その頃、新聞を読んでいて千葉かどこかで魚が打ち上げられてた記事があって、その2つが一緒になったんです。
恋人達が土曜日のドライブに行って、何気なく真っ黒な海で泳いで、次の日帰ってみると吐き気がしたっていうのを歌にしようと思ったんですけど、シーンが長くてメロディに乗せられなかったんですよね。
本来、語りは好きじゃないんだけど、これは書いたものを削りたくないと思った。
それで話すことにしたんです。
この二人の恋人たちというのは、ひょっとしたら次の日から入院して何年かして発癌して死んじゃうかも知れないんだけど、そういう、あるワンシーンですよね。
でも、ある雑誌にリアリティがないと書かれた。
最初にステージでやった時も、観客は何を歌っているんだろうっていう感じでしたね。
極端な笑い話なんですけれど、サンドウィッチを食べるシーンがあるんです。
で、あくる日、目が覚めると吐き気がしたというのを「ビールを飲み過ぎたんですか?」とか
「彼女の作ったサンドウィッチが傷んでいたんですか?」とか。
こいつ何考えてるんだ、みたいな(笑)
そういう時代だったんですね。
その時は、ただ笑ってました。
ひきつってましたけど(笑)
著書「浜田省吾事典」より
そんな風に、省吾さんにとって、当時頂点と思えたアルバムだったようです。
たぶん、今だと、これを超えるアルバムもあると思うんですけれど
これからの社会で切り離せない問題も付随しているテーマを持つ「僕と彼女と週末に」という作品が生まれたアルバムということもあり
特別なアルバムになっているような気がします。
本当は、他の歌も掘り下げたいところですが、一度に書ききれませんね(笑)
今回のアルバムは、地球規模の問題を提示しているアルバムになりましたけれど
次なるアルバムでは、それとは逆に、誰にとっても ごく身近に感じるような物語を描いた作品になっています。
今回はとある街の物語でしたけれど、それがストリート沿いの物語へと続いていくんです。
そのお話については、次に続きます(*^_^*)
しかし、このコーナー。長文になりすぎるなぁ(冷汗)